2021年5月23日(日)
この日、天竜浜名湖鉄道のTH3501が引退した。
2020年12月に故障が見つかり、そのまま運休が続いていた車両。
復帰することなく廃車が決まり、ラストランは乗客を乗せない関係者のみの回送運行という、静かな幕引きとなった。
それでも、どうしても見送りたかった。
せっかくだからと、この日はまず新所原から掛川まで、天浜線を全線乗り通すことにした。
地域に支えられる天浜線の風景



宮口駅の待合室には、手作りの木の看板が掲げられていた。
「あらたま 宮口 庚申信仰と宮口小梅の里」
天浜線サポーターズクラブや地元の人たちによるものだろう。
こうした空気感が、この路線らしい。



天竜二俣駅では「勇退記念イベント」の看板。
羽織袴姿の関係者がマイクの前に立ち、その横には制服姿の駅員。
さらに進むと、木造ホームの屋根の下には
「Tenryu wind orchestra」と書かれた譜面台が並んでいた。
高校の吹奏楽部だろうか。
天竜二俣駅での式典に向け、慌ただしく準備が進んでいた。
主役との対面、天竜二俣駅

天竜二俣駅に差し掛かると、留置線にその姿があった。
クリーム色とワインレッドの車体。
側面には「ありがとうTH3000形」のプレート。
前面には引退記念のエンブレム。
1996年から2021年まで、25年間走り続けてきた老兵だ。
何度も目にしてきたし、それこそトロッコ列車「かわかぜ」号の牽引車として使われた頃から慣れ親しんでいる車両。
森町で迎える、最後の瞬間
混雑を避けるため、遠州森のひとつ先、
森町病院前駅で列車を降りた。
ここを選んだのには理由がある。
直線区間で速度感があり、そして何より静かだからだ。
この最後の瞬間を、人混みではなく、ひっそりと見届けたかった。
同じように待っていたのは、あと2人ほど。
それぞれカメラを手に、線路の先を見つめている。
最後の回送、そして別れの警笛



やがて遠くに列車の姿が現れた。
踏切が鳴り始め、ワインレッドの車体がゆっくりと、
しかし確かな速度で近づいてくる。
乗客はいない。
関係者だけを乗せた、最後の回送列車だ。
そして通過の瞬間——
警笛が鳴り響いた。
長く、まっすぐに伸びるその音は、
あっという間に遠ざかり、遠州の初夏の空へと消えていった。
静けさの中に残る余韻
ホームに残ったのは、静けさと、線路の上のかすかな余韻だけ。
35年間、ありがとう。
TH3501。


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