――湿原を抜けて、釧路へ
2021年3月10日 茅沼 → 釧路

茅沼駅といえば、タンチョウの飛来地として知られる駅だ。
冬のこの時期、運が良ければホームのすぐそばで優雅な姿を見ることができる。
期待を胸に車窓へ目を凝らしたが——この日に限って、その姿はどこにもなかった。
広い雪原が、ただ静かに広がっている。
旅とはそういうものだ、と自分に言い聞かせながら、列車は先へ進む。
突然の警笛、そしてエゾシカ


しばらくして、警笛が鳴り響いた。
ブレーキがかかり、車体がわずかに前のめりになる。
窓の外へ目をやると、線路脇を数頭のエゾシカが駆け抜けていく。
驚かせてしまったのはこちらなのかもしれない。
彼らは少し離れた場所で立ち止まり、こちらをじっと見つめ返してきた。
その目には恐怖よりも、どこか好奇心のようなものが宿っている。
やがて彼らは、雪原の奥へと消えていった。
タンチョウの代わりに、北海道らしい出会いをもらった気がした。
冬の塘路と細岡



塘路駅では列車の行き違いのため停車する。
釧路湿原の玄関口として知られる駅も、
冬の今は人影が少なく、風だけがホームを通り抜けていく。
続く細岡駅にも停車。
湿原を一望できる展望台への最寄り駅として知られるが、
この日は降りる人もなく、列車は静かに発車していった。
白一色の釧路湿原

釧路湿原駅は通過。
窓の外には広大な湿原が広がっているはずだが、
雪がすべてを覆い尽くし、その境界は見えない。
湿原も、川も、野原も——
すべてが白く均された世界。
それもまた、冬の釧路らしい景色だった。
東釧路、そして終着へ


やがて湿原の風景が遠ざかり始める。
遠矢駅を過ぎると、もう一本の線路が近づいてくる。
根室本線だ。
東釧路駅を過ぎると、
釧網本線はその線路を借りる形で、終着へと向かう。
釧路到着


網走を出て、知床の麓を走り、峠を越え、湿原を抜けて——
3時間20分余りの旅が、終わろうとしていた。
車内ではまだ何人かが転寝をしている。
エンジンの振動だけが、変わらずに続いている。
やがて列車は静かに速度を落とし、
車窓の向こうに釧路の街が広がってきた。
キハ54のブレーキがかかり、
長い一日が、そっと幕を下ろす。


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